2004年11月29日

賑々森

足元から、横から、頭上から。
四方八方から、あるいは緑、あるいは茶と言葉にならない光が満ち満ちている。

「『しんしんもり』だよ」
その少年は、少し意地悪な笑顔で教えてくれた。
(なるほど、確かに)


有無を言わさず認めさせられてしまい、苦笑せずにはいられなかった。
「賑々森」と、誰が書いたか一枚の紙切れが手に落ちた。
こ・れ・で、「しんしんもり」とやらに着いたらしい。

これから分け入るそこは、郊外とはいえ、都会の喧騒が聞こえていた。
飽きもせず高く鳴り響くサイレンに、またぞろ人々はどよめいて。
飛行機雲が「これぞ私の役目」とばかりに空を切り裂いていた。

さてと分け入れば、暗い森の奥を覗いていた目を、嫌というほど殴りつける乱暴な光の歓迎パーティーだ。
目くらましのまま戻るかと思えば、かの少年のコ馬鹿にした笑顔が浮かぶ。
いつでたっても、子供は、いやったらしい存在だ。

もっとも、何も見えずとも足をさえぎるものとてないようだ。
地面は何事もないように我が足を迎えてくれている。
しかし、奇妙で味わったことのない感覚は何ぞ?
まぁ、良しとして足の向くままに、たかが散歩ぞ。

小川でもあるのか、サラリチラチラと水音が不思議なリズムを奏でている。
時折「ピチャン!」と一際に響くのはカエルか魚か。
くぐもった「ぐぅぐぅ」という。
呻き?鳩とは違うな。

光彩を引き破って現れた巨大な木がオークであれば、英国気分で良いのだろうが、残念ながら私に木の名前は分からない。
ただただ巨大な木であることだけは分かる。

見上げれば雲を邪魔と言わんばかりの繁り具合。
「うるさいっ!!」
思わず叫んだつもりが全く自分の耳にも届かぬのでビックリして見上げると、木は悠々と強風となにやら議論を始めている。

強風は必死になって、あれやこれやを伝え、訴えかけるが。
肝心の木は一つのことだけを言い続けている。
まぁ、木の言葉など分かりはしない。
大要、動けない自分に出来ることなどありはせん、とでも言うところか。

しかし、その木のお陰で薄まった光彩を見透かすと、遠慮がちにこちらを覗いている動物がいる。
ギョッとする間もなく、私を囲むかのようにソイツラは集って。

いや、初めから闖入者など関係ないようでもあるが、ゴソゴソと訳の分からぬ会話を交わしている。
かと思えば、ひっきりなしに体当たりを繰り返し始めた虫達は、エネルギーの無駄遣いとしか思えないブンブン?羽音で狂った飛行踊を続けている。

少年とも少女とも言えぬ年頃の幼児が、ニッコリと微笑んで気を失い始めたその時、グルグル回る頭が思い出してくれた。
このグヮングヮンと鳴り響いている音はなんなのだ?

ハタと気付けば、森を通り抜けた先では相も変らぬクラクションと人いきれ。
スッキリした頭に戻って、カツンカツンと気持ちよく歩き出して気付いたのだ。
「サクリ、サクリ」と森を分け入り歩いたツモリではあったが、そんな音は私が勝手に想像していただけであることを。

振り返れば、向こうの景色が分かるほどの寂しい木立。
ヤツにも「賑々森はそこにある」と教えてやろう。
光化学スモッグに澄み切った青空を見上げながら「サクリ、サクリ」と歩き始めた。
賑々森はそこにある。

「『しんしんもり』だよ」
小さく声に出して言ってみた。
確かに、少し意地悪な笑顔になった気がした。

まっく記 at 17:28 記事全文
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