2004年11月28日

亜麻色の夢

土曜だというのに朝も早くから目が覚めてしまった。
今でも、年に何回か見る、あの夢のせいだ。
女房には言ったことはないし、これからも言うことはないだろう。


彼女とは、学生最後の夏も過ぎ、眺めるだけの海になった頃に付き合い始めた。
何故だろうか、細かいことは、もうほとんど忘れている。

「付き合う」という程の付き合いをする女性とは、結婚というか「一緒の生活」を考えてしまうのが私の思考パタンだ。
当時、女房とは既に付き合い始めていたから、要するに二股だった。

彼女は、私に彼女(今の女房)がいることは知っていた。
それも結婚を前提に付き合っていることも。考えてみれば妙な話だ。
それでも逢瀬を重ね、彼女の部屋に転がり込んだりする日が続いた。
彼女との記憶は、いつも今日のような、少しツンと寒く澄んだ青空が重なる。

細く長い亜麻色の髪と少し色黒の肌。
子供のように愛らしいながら逞しい弾力を持つ唇。
小柄で筋肉質の肢体に、少しハスキーな声。

元気な娘だった。
悩み事があると、TVに視線を向けて下らない番組に笑いこけながら他人事のように話す娘だった。
ちょっとした贈り物でも嬉しさを目一杯に示してくれた。
歌の上手い娘で、松田聖子をよく口ずさんでいた。

ロフトに潜り込んでは戯言を交わし、浅く短い眠りの合間に、ボンヤリと行く末に思いを馳せながら彼女の体を確かめていた。
彼女も同じく、出口のない今を彷徨っているようだった。
言葉に出来ないままに、同じことを感じていたのだろうか。

何故か彼女の髪を梳くのが何とも言えず好きだった。
しかし、それも今となっては厄介なほどホロ苦い感覚を手にありありと残すことになってしまった。

春の気配も未だ感じることのない、ある日。
彼女から「別れられないでしょ」と電話で言われ、終わった。
「泣くんでしょう?」
いつもの快活な声が、悪戯っぽく似合わない言葉で、電話越しに精一杯の決意を届けた。
全くに情けない思いが言葉を失わせる。

やがて私は今の女房と結婚し今に至るが、以来、遊びはしても新たに付き合った女性はいない。
二人の女性と付き合うのは、自分には無理だと思い知らされた。

記憶を呼び起こすような歌は私には辛い。
男とは、そういう情けなさを持つものらしいと聞いたことがある。
ともに30歳を越え40歳にも届こうかという今、お互いを見てもすぐには分からないかもしれない。
捨てきれずに残してしまった数葉の写真の彼女は、今でもあの時の笑顔のままだ。

亜麻色の夢を見る度に、想いだけが切なく馳せ飛んでいく。
ツンと寒く澄んだこの青空は、君もまた見ているだろうに。
君も見ているだろうに、遠過ぎるこの空は、少し辛い。

いつか聞かせて欲しい。
今でも、あの時の笑顔のままだろうか?
私は、変わっていないだろうか?
空よ、そんなに澄んでいるのなら、この虚しい問いも吸い込んでくれないか?

亜麻色の夢は君の元に私を運び、辛い目覚めだけを残していく。

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 普段の僕は快活だ。だから悩みなど無いと想われている。僕を称する噂に寄れば、  母が死に、父が死に、遺産がたくさん入って、  経済力も旺盛、  長年、髪は無いが(ウワッ!!書いてしまった・・・スキンヘッドです。)  夢や理想を吐き、仲間も多く、  独身貴族、...

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