2006年07月07日

慟哭の背中

お前の考えてることなど分からいでか
 お前は、俺に よく似てる

ぶっきらぼうな その言葉に一葉の写真が透ける


生まれて間もない私を肩背負しょい笑っている
彼方と一緒の一葉の写真
当時の彼方に、何故にその満面の笑顔・・・

汗と涙に塗れた工場
その只中で百名を超える男達に囲まれ罵声を浴びたと聞きます
それでも彼方は、憤怒に燃えなかった

十八で別れを告げた郷里と父母
それから幾歳、永久とわの別れに皆が見たはずの一筋の涙
それでも彼方は、慟哭に身伏せなかった

いまや彼方は私に背を任せ
その背中の硬き事、硬き事
この背をこそ、私は見、育ったのです

今なら少し、分かる気がします
ただ、ただ大きかった この背中
その奥に仕舞い込んでいた憤怒も慟哭も

時にその、あまりな無表情に母は拗ねた
彼方は耳傾けながらも やはり無言
それは不思議な光景でした

母は言葉せぬ彼方の代理人でもありました
本当は優しい人なのよ
そうして言わずにおれぬ母

しかして母よ
私とて、彼の人の背を見ぬでもない
彼の人の背中の雄弁を、私もまた、学んできたのです

今もまだ、彼方は変わらぬ笑顔を向けている
老いて、かくも硬き背中を向けている

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔