2006年03月01日

銀河マティニ

扉が重いのは何も高級素材を使っているからとは限らない。
蝶番が古くなれば、それだけで重くもなる。
扉の上で捲り返った薄板がプランプラン。
デザインに凝った取っ手もメッキは剥げる。

人の出入りの寂しさに甘えて、そんな扉をジッと眺めてみる。
なんで、この扉を開けたくなるのだろう?
開けても出れば良いだけのことではあるわけだが、ね。

コートをすり抜けた氷風が先に店に忍び込んで、代わりにいつもの声が響く。
(姉さん、またやってるな・・・)
なんとか避難出来れば良いのだけど、それもままよ。
 グギギ、ギギ・・・

「おばんです」
マスタアは苦手なメニューでも頼まれたらしい。
そんなに険のある眼で見なくてもいいじゃないか、
と人差し指一本を立てると、また格闘の再開だ。

 だから、あんたみたいにショボクレタもんを持ってるのが気に喰わないのよ、分かる?
 勃つんなら勃たせてみなさいよ、情けないったらありゃぁしない!

姉さんに言われりゃ、誰でも萎むと想うけどな。

兄さんはカウンタア奥のストゥールに胡坐して、
いつものノンチェイサーのストレートを舐めながら、
シガレットの灰がどこまで伸びるか研究中だ。
いや、もう一方の手に持った本に夢中だ。

兄さんの後ろの少し低めのテーブル付きストゥールが、やはり安心出来る。
カウンタアのマティニを一口舐めて席に着く。

兄さんにも一つ、マティニを。
姉さんにも一つ、マティニを。
マスタアにも一つ、マティニを。
絡まれてた貴方にも一つ、マティニを。

兄さんは少し渋い顔をしながらマティニを眺めてる。
姉さんはオリーブをカリッと噛んで遠くを見つめてる。
マスタアはグイと飲み干して格闘を始めた。
貴方はグラスを手に戸惑っているね。

マティニの中には、淡い光が踊っている。
マスタアは心得ている。

グラスの中で、静かにマティニになっていく。
ノンシェイクのマティニを飲むのには、
今しばらく時間が必要なのだ。

そう、ほんの少しの長い時間が必要なのだ。

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