2006年02月22日

斬影−砂州にて(2)

斜陽を受けて、美しい砂が燃えるように朱に染まっている。
整っていた砂州であったが、いまや荒々しい弥平の足跡を刻まれ、一部は地面を剥き出しにしている。
弥平が無我夢中になってより、既に相当の時間が経っている。

弥平はあらん限りの技を尽くした。
無心に振るわれる剣は、時に想わぬ怖さを持つ。
しかし、透春には遠く及ばなかった。
相変わらぬ透春の足さばき、剣さばきに翻弄され尽くし、さすがの弥平も膝が笑い、時に地に身を投げた。

弥平が立ち上がり遅れれば容赦なく透春の剣が弥平を鞭打つ。
さらに遅れれば厳しさを増した言葉が投げかけられる。
「剣は振らねば当たらなかろう、止まれば死が待つのみぞ。」
透春の語気に乱れは無い。

弥平が、立つ気力も失せる刹那である。
「刀が泣くな・・・」
透春の言葉に弥平の身が躍り、さすがの透春の真正面をも斬り割くかと想われた。
透春は軽やかに斬りかかる剣を突いて返した。
「ドンッ」
無様な格好で弥平は仰向けに引っくり返った。
霞んだ瞳に映った空は、既に紺模様にチラチラと星を纏い始めていた。
透春は変わらぬ涼やかな眼で弥平を見遣りつつ言った。
「弥生、もう良かろう?」
「?」

辛うじてこうべを挙げて透春の方を見ると、いつの間にか、透春の背後、庭向かいの部屋に女将が座していた。
女将は弥平をジッと見つめ、静かに呟いた。
「今はまだ、仕方ありませぬやも・・・」
弥平は、そのまま気を失った。

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