2006年02月19日

斬影−剣に語らせよ(1)

美しい砂州であった。
一粒一粒の砂が、ここ数日、強さを増してきている陽の光を受けて眩く、目に痛いほどである。

見渡せば簡素も過ぎるほどの亘り二間少々の小庭に座して、砂の美しさを楽しんでいた。
(これだけの間があれば十分・・・過ぎるであろうな)
諦観して苦笑する弥平も、座主の力量は既に承知している。

左傍らの木剣は、弥平の自作のものである。
荒んだ剣の交わりばかりに付き合わせてきた。
(こいつも佳きものが見れれば本望だろう)

つい数日前の立会いで付いた傷が目に入った。
平素の通り・・・のはずが、意外や腕の立つ者であった。
彼の立会いは、古の書画を楽しんだ剣豪のそれとは異なる。

弥平は、立会いに当たっては出来るだけ相手の条件に合わせた。
得物は勿論、日時、場所を違えたことはほとんどない。
彼にしてみれば策略を弄する暇があれば腕を上げれば良かろうに、としか想えない。
合戦に臨むならいざ知らず、もはや合戦の一道具というだけのものではなくなった剣こそが、彼の知る「剣術」であった。

昨今では「竹刀」と称して刀を模した竹作りの得物と身動きしやすい甲冑・・・「防具」を身にまとって稽古をする流行りもあるらしく良し悪しを論じられていると聞くが、彼にはむしろ好ましく想えた。
数度、実際に竹刀を手にもしたが、竹刀・防具に守られた安逸に流れているきらいもなくはないが、多くは打ち込みも真剣で、決して悪いものではない。
彼が樺篠輔に立会いを求めたのも、篠輔が自らは竹刀・防具を着けた事もないままに、
「あのような所業を以って剣術とは笑止、剣は一振りで生死を決めるものよ。」
と公言して憚らぬ輩と知ってのことであった。

篠輔とても田舎侍ではあったが、羽振りの良い商家の主人を弟子に持ち、立派な道場を構えて鷹揚に名人を模していた。
弥平は噂を耳にすると、すぐに彼の道場を訪ねた。
小窓からは時折「エイッ!」「ハッ!」と稽古の様子が伺えはしたが、いずれも息遣いが荒過ぎる。
この程度なら、と過ぎる積もりであったが、篠輔らしき人物の声が聞こえたのがいけない。
「剣の道は子供の棒振りではない。
 たとえ木剣であろうと、一度、触れれば命なきものと心得よ!」

弥平の口元がモゴとして痰を吐き捨て、その足で彼は道場の入口に向かい、篠輔に取次いでくれるよう頼んだ。
表向きは旅修行につき、一手、指南をお願いしたいというものである。
篠輔自身に旅修行の経験はないようで、また、この小田舎に訪れる旅修行の者も多くはなさそうである。
髭に小刀を無造作にあて、髪も後ろ束ねのむさ苦しいだけの弥平は、たれの目にもやつればかりが目立ち、よもや遅れを取るなど考えもしなかったこともあるのだろう。過ぎるほど無警戒に、彼は迎え入れられた。
「今時、その若さで旅修行とは。
 剣を志した者として立派なことだ。」
篠輔自身の人柄は決して悪いものではない、弥平は少し悔いた。

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